Antonio Carlos Jobimの「WAVE」を入手した。
見開きのジャケットのアメリカ盤である。
レコード番号は<A&M LP-2002>。
ジャケットの表面はコーティングがほどこされている。
これは、通常「コーティングジャケット」と聞いて想像するグロッシーなコーティングとは異なり、メンディングテープでおおったようなマットな風合いである。
レコード盤の内周には「VAN GELDER」の刻印が入ったオリジナル盤である。
私はこのレコードを3年以上に渡って探し続けてきた。
週に一度はレコード店に足を運ぶとして、1年に50回。
3年なら150回以上だ。
やっとみつけた。
レコード店に行くたび、フュージョンのコーナー、ボサノヴァやブラジル音楽のコーナー、ジャズのコーナーをくまなくチェックしてきた。
しかし、一度もこのレコードを見たことが無かった。
値段が折り合わなかったのでも、コンディションに納得がいかなかったのではない。
再発盤や国内盤では見かけても、オリジナル盤を目にする機会はまったくなかった。
ただの一度もこのレコードを見たことが無かったのだ。
ネットオークションでは何度か見かけたが、いずれもけっこうな価格で落札されていた。
あるレコード屋さんのメルマガでも、新入荷の中に何度か見かけたが、店に駆けつけられるタイミングではなかった。
今回やっと店頭で、このレコードのオリジナル盤と出会うことができた。
私がこのレコードをはじめて聴いたのは、およそ20年前だ。
ジャケット写真が緑の、シングルジャケットの国内盤だった。
ここににおさめられた、極めて都会的で洗練されたボサノヴァを、私は、なんてきどった音楽なんだ、と最初に思った。
ロックを中心にビートのきいた音楽ばかり聴いていた私には当然だろう。
退屈だ、とすら思った。
「きどった音楽」とか「退屈」と思ったにもかかわらず、私は何度もこのレコードを聴くことになった。
このレコードを聴くととても良い気分になるからだ。
晴れた日の起き抜けなどは特に気持ちが良い。
単なるBGMではない何かをこのレコードに感じた。
私の生活に欠かせないレコードになった。
その後、ジャケット写真は緑ではなく赤のバージョンがオリジナルであることを知り、オリジナルと同じ見開きジャケットの国内盤を入手した。
これはおそらく日本での初回リリース盤だと思われる。
オリジナル盤と同じレーベルデザインで溝がある。
このレコードは音の良さでも際立っている。
ルディ・ヴァン・ゲルダーという世界屈指の録音技師によって録音されている。
彼の手がけたレコードは、音が良いことで知られている。
発売当初のオリジナル盤を聴いてみたい、という気持ちになるのは当然の流れだった。
それから3年以上探しに探した結果、こうやって私の元にやってくることになった。
これによって私が、Antonio Carlos Jobim「WAVE」のゴールに辿り着いたのか?
ノーである。
今回入手したのはモノラル盤であるが、私はステレオ盤が欲しい。
67年に発売されたことを考えれば、ステレオ盤で聴くのが自然だろうと思う。
「このモノラル盤はほんとうに珍しいよ。私は初めて見た」
レコードを買う時に、レコード店の店主は私にそういった。
そう言われて悪い気はしないのだが、ステレオ盤を欲しい気持ちに変わりはない。
そう、これはゴールではないのだ。