ザ・バンドのことを最初に知ったのは、中学生の時だった。
友だちの、高校生のお兄さんが「THE BAND」とかかれたトートバッグを持っていた。
「THE BAND」とは変わった名前だなあ、と思った。
自分が聴く音楽だとは思えなかった。
時は80年代中頃、農夫みたいな服を着たひげ面のオヤジたちがとてつもなく流行遅れに見える、そういう時代だった。
その頃の私といえば、ヘヴィメタルやパンク、つまりハードなロックにしか興味がなかった。
ザ・バンドを聴くようになったのはずっとあとだ。
20代後半、あるいは30代に入っていただろうか。
彼らの1st「ビッグ・ピンク」のレコードは持っていたけれど、ロックの教科書に載るくらいの名盤だから買ったにすぎない。
「ビッグ・ピンク」は買ったものの、「ザ・ウェイト」くらいしかきちんと聴いていなかった。
その「ザ・ウェイト」にしても「イージー・ライダーのサントラに入ってる良い曲」という認識だった。
2ndアルバム「ザ・バンド」を手にしなければ、ザ・バンドに夢中になる事は無かっただろう。
そのレコードにしても、安かったからたまたま手にしたにすぎない。
出会いのタイミングはとても重要だ。
その時、私がザ・バンドを受け入れられる程度に音楽的耳が成長していた、つまり機は熟していた、ということだ。
ヒゲだらけのむさいオヤジがどーんと写っている焦げ茶のレコードジャケットデザインも悪くなかった。
90年代以降の流行では、レイドバックした彼らファッションも自然に受け入れられるような時代になっていた。
ザ・バンドとボブ・ディランの関係性という知識を得た事も大きい。
ボブ・ディランはずっと聴いていたのである。
そしてザ・バンドからウッドストック周辺のシンガーソングライターたちへも興味は広がり、つぎつぎ夢中になって聴いた。
彼らの再評価の機運もまださほどではなくて、レコードも入手しやすかった。
ラッキーだった。
ザ・バンドが開いた扉の向こうには、アメリカのさまざまな音楽が聴こえてきた。
それはブルースやカントリーであった。
それら私にも馴染みのある音楽だった。
ほとんどハードなロックにしか興味がなかった中高時代にも、なぜかラジオから流れたハンク・ウィリアムスが気に入って、図書館で借りて聴いていた。
大学生のときには、好きなミュージシャンがインタビューで語っていたマディ・ウォータースやサニー・ボーイ・ウイリアムソンなどを一生懸命聴いたものだった。
それらの音楽がザ・バンドを聴きだしたことでひとつにまとまりだしたのだ。
そうか、アメリカの音楽ってそういうことだったのか!
そんな気分だった。
音楽が、ロック、ポップス、ブルース、カントリー、ジャズといった、ジャンルだけに収まらない広がりと関係性を持っていることが突然理解できたのである。
それまでの自分はなんと狭い音楽の聴き方をしていたのか、ということに気付いてしまった。
音楽の再発見だった。
それまで以上に音楽が楽しくなった。
それを教えてくれらのはザ・バンドである。
もちろんザ・バンドだけではないけれど、ザ・バンドは重要な一要素であることは間違いない。
ボブ・ディランの公式サイトに四月十九日付けでリヴォンへの追悼コメントが掲載されていたので転載させていただく。
April 19, 2012
< In response to Levon’s passing >
He was my bosom buddy friend to the end, one of the last true great spirits of my or any other generation. This is just so sad to talk about. I still can remember the first day I met him and the last day I saw him. We go back pretty far and had been through some trials together. I'm going to miss him, as I'm sure a whole lot of others will too.
写真は、おそらく私が持っているザ・バンド関連のレコードで最も貴重な一枚。
これはザ・バンドの前身グループである「ホークス」が、ロニー・ホーキンスのバックをつとめているレコードである。
ルーレット・レコードからリリースの赤盤である。
赤盤には違いないのだが、半分くらいが黒とのマーブルになっていてあまり赤盤に見えない残念なレコードのだ(笑)。
そしてどうやらこの時代(58年)のホークスには、リヴォン以外のザ・バンドメンバーはいないらしい。
そう、ロニー・ホーキンスとは、あのラストワルツにも登場しているロッカーである。
(実はこのレコード、以前にも自慢した事がある:笑)