のんちゃんは、ワールドカップの準々決勝、ブラジル対オランダ戦を見ようとテレビの前に座った。
7月2日のことである。
負けたチームはその瞬間大会が終わってしまう決勝リーグ。
伝統ある両チーム、もちろんどちらも負けられない試合だ。
その試合の審判を日本人がつとめる、と実況のアナウンサーが言った。
のんちゃんは、西村雄一という主審の名前に聞き覚えがあった。
審判団が選手を従えてピッチに入ってゆく。
主審には見覚えがあるような…。
試合開始10分。
センターサークルからの縦パス1本でディフェンダーの裏に走り込んだロビーニョが軽々と決めた。
ブラジルの先制だ。
オランダは完全に劣勢。
ブラジルのボールまわしに完全に翻弄されている。
そこはプライドのはり合い。
オランダ選手は相手に体をぶつけ、削る。
相当激しくいく。
そしてオランダは次第にペースを引き寄せていく。
両チームの選手達が日本人である主審に対しどこか挑戦的にも見える。
ファウルをとられた選手が審判に喰ってかかる。
主審は両チームの選手に冷静にプレーするよううながす。
おだやかに、しかし毅然とした態度で選手に向かい合う。
実況のアナウンサーも解説者も、たびたび主審のジャッジを誉めている。
のんちゃんはアナウンサーが主審の名前を言うたびに記憶をたどる。
西村雄一、西村雄一…。
う〜ん。
ここまで思い出せそうなのに…。
ふっと記憶が戻ってきた。
そうだ!
同じ高校だった西村君だ!
なるほど、見覚えがあるはずだ。
おお面影あるある。
うわぁそうか西村君だったんだ。
西村君がねえ。
西村君はサッカーの審判になりたい、そう言っていた。
今だってサッカーの審判になりたい高校生は決して多くはないだろう。
しかし20年前、サッカーの審判になりたい、という彼は相当に変わった人に見えた。
おとなしかった西村君はサッカーの審判になったんだ。
西村君は南アフリカでワールドカップ準々決勝のピッチに立っている。
グランドの中央で試合を仕切っている。
ブラジル対オランダ戦をさばいている。
試合は激しい当たりでペースを引き寄せたオランダが後半鮮やかに逆転した。
ブラジルはボールをキープ出来なくなった。
あせりから冷静さを失っていった。
73分にブラジルのフェリペメロがオランダのロッベンを踏みつけた。
主審の西村氏はレッドカードを掲げた。
イエロー5枚、レッド1枚がでるという激しい試合だった。
ともすると荒れてしまいそうなゲームを主審が巧みにコントロールしていた。
この試合での審判団への評価は高く、西村氏はその後の決勝戦で第4審判を務めた。
決勝後の表彰式、両チームの選手に先立ち決勝を担当した審判団はメダルを授与された。
知り合いののんちゃんは西村雄一氏と同じ高校だった、という話。
それをのんちゃんたら準々決勝という劇的なタイミングで知るとは(笑)
試合そっちのけで(?)ウィキって大興奮だったらしい。
私もウィキペディアみてみたら、そうかあのときの審判だったのか!というエピソードがちらほらと。
しかし高校生の頃から審判になりたかったってのは凄いなァ。