クリスマスアルバムって、普通は一家に1枚あれば十分だろう。
年に一度、仕舞い込んでいたツリーやオーナメントをクローゼットから引っ張りだすのだ。
ツリーを組み立てて、オーナメント飾り付けて、その後ろでCDをかければ気分はすっかりクリスマス。
ホワイトクリスマス、ジングルベル、サンタが街にやってきた、などなど。
家族の笑顔、シャンパン、クリスマスディナーにクリスマスケーキ、BGMにぴったりってわけだ。
そのようにクリスマスアルバムは楽しむものなのだろう。
時期が過ぎればツリーやオーナメントとともに次のクリスマスをクローゼットの中でじっと待つわけだ。
クリスマスアルバムはきっと、一人で鑑賞するようなものじゃない(笑)
しかし音楽好きにとってクリスマスアルバムというのは事情が異なる。
好きなアーティストのクリスマスアルバムならとりあえず聴きたくなるのが人情ってモノだろう。
1枚2枚と買ってゆくうち、気が付くと何枚も持っていたりする。
ただ、リリースされた年のクリスマスに何も考えずに購入出来れば良いのだが、それを外すと案外買うタイミングが難しい。
買ったところでクリスマス以外の時期に聴く事はほぼないことも知っている。
クリスマスにすら聴かない手持ちのクリスマスアルバムだって多いのではないか。
買い逃した後「いつか買おう」と思いつつ忘れてしまったりもする。
そのうちだんだんクリスマスアルバムを買う事にためらいも出てきたりする。
どうせ聴かないし、という訳だ。
そう、私にとってクリスマスアルバムは微妙な存在であり、買わなくても良いか、というカテゴリーだったりする。
クリスマスアルバムはちょっとした贅沢品といったところだろうか。
とかいいながら写真の通り、クリスマスアルバムを買ってしまった。
しかも春のこんな時期に(笑)
我ながら酔狂だとは思いつつ、スフィアン・スティーブンスのクリスマスアルバムを紹介しよう。
SUFJAN STEVENS PRESENTS SONGS FOR CHRISTMAS SINGALONG
これは5枚組というとてつもないヴォリュームのクリスマスアルバムなのだ。
アメリカ50州のコンセプトアルバムを作りたい、という彼の作品の中でも異彩を放つ眩しいばかりのクリスマスアルバムである(笑)
これはミスタトゥマッチ(私はスフィアンのことを勝手にそう呼んでいる)からファンへの単なるグリーティングカードではない。
これは挑戦状でもある。
「君は買うの? 買わないの?」という、ファンへの踏み絵アルバムである(笑)
前から聴いてみたい気持ちはあっても買うつもりは無かったCDである。
年に一度聴くか聴かないかのクリスマスアルバム、しかも5枚組だなんて、と思っていた。
これだって正直に言えば、安かったから買ったのだ。
安いにも関わらす店頭でCDを手に、しばし悩み、今買わなきゃ絶対次は無いな、と思いつつ清水の舞台から飛び降りたのだ(笑)
本当に聴くのか? 何度聴くのか? なんて言葉も頭をよぎった。
しかしそれらはCDをかけるまでの杞憂であった。
聴いてみてぶっ飛んでしまった。
これはクリスマスアルバムのイメージとはおよそかけ離れている。
「クリスマス」をテーマにした壮大なコンセプトアルバムなのであった。
随所に鈴の音や鐘の音といったクリスマス的記号の音色が配置されてはいる。
皆が知っているクリスマスソングも数曲聴く事ができる。
しかし「クリスマスだぜ、盛り上がっていこう」的祝祭ムードはほとんど無い。
一年を通じて聴く事ができるアルバムである。
何しろ5枚組42曲入り、2時間を超える大作である。
スフィアン・スティーブンスの素晴らしき世界がぎっしり詰っている。
ここにあるのは、ルーツミュージックへの敬意や偉大なる作曲者達へのオマージュである。
そして現代音楽への憧憬とポップミュージックへの限りなき愛にあふれている。
これをクリスマスアルバムというだけで聴き逃していたらとてつもない大損をするところだった。
ゼロ年代ロックのひとつの到達点といって過言ではない傑作アルバムである。
すべてのミュージック・ラヴァーに聴いてほしい作品である。
このアルバムを手することができた私は幸せである。
そしてプロダクトとしての魅力もまた素晴らしいのだ、これが。
キュートな外箱に入った5枚それぞれのジャケットの表裏、シール、ポスター。
ソングブックと題されたイラスト満載のブックレットには、数編のショートストーリーも掲載されている。
またアルバムタイトルに「SINGALONG」とある通り、歌詞と共にコード譜だってついているのだ。
これでもかッてくらい盛りだくさんである。
スフィアンたらサービス過剰なんだ(笑)
それゆえ「ミスタトゥマッチ」なのである。