先週、フジテレビのドラマ「不毛地帯」が最終回を迎えた。
戦後日本の復興を、シベリア抑留経験をもつ商社マンの視点で描いたスケールの大きなドラマだった。
原作は山崎豊子、6カ月2クールに渡る長さ、一癖も二癖もあるベテラン俳優、衣装、セットも重厚で贅沢な作り。
通常の番組より2メモリくらい絞りがアンダーではないかと思わせる陰影の濃い画面も私には好ましかった。
戦争責任、過ちを繰り返さないため忘れてはいけない事、目先の視聴率を求めず真に描きたい物語を丹念に描くという制作陣の強い主張を感じる連続ドラマだった。
残念ながらテレビ局から求められたであろう視聴率や期待したような話題を集める事は出来なかったようである。
あるいはその影響だろうか、年末年始期間の中断も長かったし、最終回時間延長スペシャル版といった盛り上がりもなかった。
しかし、淡々としたクールな視点から内なる熱いクライマックスへと進む展開は圧巻であった。
主人公の壹岐正(唐沢寿明)はもちろん、ヨッシャヨッシャと大阪商人的イメージそのものの大門社長(原田芳雄)、どこまでもにくにくしい里井副社長(岸部一徳)など脇役陣も見物であった。
最後まできっちりとした世界を作り上げたスタッフには大いに敬意を表したい(偉そうな私:笑)。
久しぶりに「良いドラマを見た」と爽快感すら覚えたのであった。
昨年の12月、朝日新聞の投稿欄にこのドラマのに関する感想が掲載されたのをご存知だろうか。
いわく、ストーリーの余韻に浸りたいのにトム・ウェイツのエンディングテーマ「トム・トラバーツ・ブルース」によって雰囲気が壊されてしまう、という意見だった。
エンディングテーマが「ドラマのイメージにそぐわない」というのだ。
これが私にはちょっとした驚きだった。
映像にマッチした心憎い選曲だと感心していたのだ。
吹雪く雪の中、一人たたずむ主人公を引きのアングルから、曲にあわせて徐々に寄っていくという、実ににくいエンディングだと思っていた。
後日、この投書に対する反対意見も掲載されちょっとした議論になっていた。
考えてみれば、これだけクセのあるトム・ウェイツの曲をエンディングテーマに持ってくるなんて、賛否も含めて想定済みではあったのではなかろうか。
あるいは、このあたりもっと話題になる事を制作サイドでは期待していたのかもしれない、とも思う。
「トム・トラバーツ・ブルース」は、写真のアルバム「SMALL CHANGE」の冒頭におさめられている。
私がこのアルバムを手にしたのは大学生の頃だった。
ジム・ジャームッシュの映画でトム・ウェイツを知り、八王子WAVEの格安ワゴンセールでこの再発盤を見つけたのだ。
しかしスローテンポでストリングスアレンジ中心の「SMALL CHANGE」は、血気盛んでロックばかり聴いていた私には退屈以外の何ものでもなかった。
なけなしの小遣いで買った大事なレコードだから何度も聴いたが、ついに好きにはなれなかった。
とりわけ、冒頭に納められた壮大なストリングスてんこ盛りの「トム・トラバーツ・ブルース」。
この曲によってこのアルバムを「イマイチ」という印象で固定してしまったように思う。
結局その後、棚の奥にしまわれたきりだった。
このドラマを見るまで(笑)
つまり、大学生以来この曲、アルバムを耳にしていなかったのだ。
「不毛地帯」を見て、素敵なエンディングだなァとか思いつつ、「トム・トラバーツ・ブルース」の入ったレコードを自分が持っていることにすら気付いていなかった。
なるほど、大学生の事にはこの曲の良さが分からなかったけれど、年月を経て私の音楽的許容範囲は確実に広がっているようだ(笑)
ストリングスの入ったメロウなLPも心から楽しめるのだ。
歳を取るのも悪くないじゃないか。
なんてね。
そうそう、「SMALL CHANGE」はシェリー・マンやルー・タバキンの参加も嬉しいレコードなのだった。
ジャケット裏のクレジットを見て、参加メンバーの顔ぶれにニヤリとできるってのもまた嬉しいモノである。