ジャズのレコードは決して聴くだけのものではありません。
お気に入りのレコードを手にとってジャケットを眺め楽しんでいる方も多いのではないでしょうか。
「ジャケ買い」という言葉も、いまや一部の好事家だけのものではなく広く一般に知られる言葉となっています。
元来レコード盤の保護ケースだった「ジャケット」が、タイトルや曲名、解説などが印刷されるようになり、印刷技術の発達とともにミュージシャンの写真や演奏内容をイメージさせる美しい写真なども使われるようになっていきました。
つまりジャケットが、店頭で手にしてもらうための広告メディアとして活用されるようになったのです。
その結果、素晴らしいデザインのレコードがたくさん生まれ、私たちはジャケットを眺める楽しみを得ることが出来たのです。
ブルー・ノート・レコーズの諸作はホットな演奏とともにそのジャケットの素晴らしさにいおいても知られています。
ジャケット写真が鑑賞用にヴィジュアル本としてまとめられている程のクオリティなのです。
このブルー・ノート・レコーズが最も輝いていた50年代後半からのデザインを担当していたのがリード・マイルズです。
大胆な画面構成や写真のディレクションそしてタイポグラフィ(文字のデザイン)はジャズの枠を越えてグラフィックデザインにも多大な影響を及ぼしています。
時に文字と色だけで表現されるイメージのなんとカラフルなこと。
今日のデザイナーにもインスピレーションを与え続けている彼の作品はその革新性において凄まじいものがあります。
ブルー・ノートの他にも、西海岸のジャズシーンには、コンテンポラリーやパシフィック・ジャズといったレコードレーベルに優れたデザインを残しているウィリアム・クラクストンがいました。
彼は写真家としてのほうが有名ですが、自身の写真に文字を組み合わせた素敵なジャケットをデザインしています。
ソニー・ロリンズの「ウェイ・アウト・ウエスト」やチェット・ベイカーの「シングス・アンド・プレイズ」などがパっと浮かんできます。
ヴァーヴ・レコードの前身である、ノーグランやクレフといったレーベルでは、デヴィッド・ストーン・マーティン(DSM)のイラストが印象的に使われています。
イラストレーター時代のアンディ・ウォーホルにも多大な影響を与えた繊細なタッチと大胆な色使い。
DSMジャケットというだけでそのレコードにプレミア価格がついてしまうほど人気があるのです。
このようにジャズのレコードにおいてはジャケットが演奏と同じくらい、時にそれ以上に重要なのです。
ジャズが華やかだった頃のオリジナル・レコードを手にすると、ジャケットそれ自体に「モノ」としての魅力を感じます。
しっかりしたブ厚い紙にプリントされたジャケットの美しさ。
つやつやのコーティングが施されたジャケットの美しさ。
これは手にしたことの無い人に伝えるのは難しいかもしれません。
ところで写真のジャケットはいかがでしょうか?
どうしてカンガルー?と思えば「オーストラリアン・ジャズ・カルテット」のタイトルを見て納得。
カルテットだから4匹いるのかとまた納得。
しかしその上で、いくらなんでもこのデザインは無いだろう、と思ってしまいますけれども皆さんはいかがでしょうか?
このレコード、ベツレヘムというレーベルから出ている10インチ盤です。
このレーベルといえばジャケットデザインはバート・ゴールドブラット。
この方のデザインしたジャケットもレコードコレクターに大人気です。
でもこのカンガルージャケットはどうでしょう?
彼を優れたデザイナーといってよいのか、自信がなくなります(笑)
バート・ゴールドブラットという人は、印象的な写真を使ってシンプルにタイトルを入れるデザイナーなので「腕」を感じさせる人ではないんで微妙だなァ(笑)
写真次第、なのかなァと思ったりして…。