ジェイムス・テイラーの「スウィート・ベイビー・ジェイムズ」が針飛びするキズ盤だった。
国内盤LPとCDで楽しんできたが、格安だったオリジナルアメリカ盤を買ったのだ。
そのレコードを持ってレコード屋さんに行った。
店員に事情を話した。
対応が微妙にぶっきらぼうで、私は少し居心地が悪かった。
気に入らなかったレコードをわざと傷つけて返品する人がいるのかもしれない。
だから、というわけではないが、返金ではなく交換をお願いした。
レコード棚をぐるっとチェックして、このトニージョーのアルバムを見つけた。
「スウィート・ベイビー・ジェイムズ」と同様、トニー・アッシャーのプロデュースということに気付いてひとり悦に入る。
今こそが買い時だ、と。
「スウィート・ベイビー・ジェイムズ」との差額を払って店を後にした。
しかしあの店員はカンジ悪いよ。
その夜、妻がこのレコードを目に留めた。
「それ、すごいジャケットねえ」
「え」
「どうしてその写真を選んで、そのトリミングにしたのかしら。信じられないわ(笑)」
TONY JOE WHITE ( Warner Bros. Records 1900)
私はなんともない顔写真と思っていたが、妻には強いインパクトを与えたようだ。
しかし言われてみれば、こんなアップである必要はどこにもない。
ルックスを売りにするような顔でもないし、音楽でもない。
「あなたちょっとジャケット持ってみてくれる?」と妻。
「え」
「顔の前にジャケットをこう持つのよ」
何を言い出すかと思ったが、ようするにこの顔ジャケットを私の体にぴたっと合わせようというのである。
「もうちょっと右、体の向きをそうそう開いて。そう、いいカンジいいカンジ」
すると娘がこっちに寄ってきた。
「顔でかくて笑えるわ。チョ〜きもいし(笑)」
私には自分がどんな風になっているか良く分からないが、おおよその察しはつく。
妻と娘は手を叩いて笑っている。
つまりはそういうことなのだ。
二人は大喜びであるが、私はなんだかトニージョーに申し訳ないというか、いたたまれない気持ちになってしまった。
そのあと、家族でこのレコードを鑑賞した。
チョ〜カッコいい、ということで皆の意見は一致した。
「これってソウル、よね?」と妻。
「そうソウル・ミュージック、白人のリズム&ブルースだね」と私。
とにかく、黒くてワルそうなアルバムである。
一曲目のタイルは「They Caught the Devik and Put Him in Jail in Eudora, Arkansas」という。
なんだか分かんないが最高だ。
「ジャケットのデザインはともかく」と妻。
「だよね」と娘。
そのとき息子が何をしていたのか、思い出せない。