TO KNOW IT IS TO LOVE IT(会ったとたんに一目惚れ) |
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日曜日の朝、娘と散歩に出掛けた。
近所にあって、いつもは通らない道やしばらく通ってなかった道を選んで歩く。
この道はあそこの道とそこでこんな風につながってるのか、なんて発見がある。
久しぶりに通った道に、へえこんなお店ができてる、なんて発見がある。
そんな、いつもは通らない道を久しぶりに歩いていたら、新しくできた古道具屋に目がとまった。
コンクリート打ちっぱなしの外観、そこが白いペンキで塗られ、ウィンドウには木製サッシが使われている。
ウィンドウには古い泥人形が覗いている。
開店準備をしている女性と目が合った。
やっていますか?と声をかけると、どうぞどうぞと笑顔で招き入れてくれた。
娘にも、見てっていいかな、と尋ねると、肩をすくめて、どうぞとクールに許可がおりた。
私が駄目って言ってもどうせよっていくんでしょ、とでも言いたげである。
店に入る。
壁に掛けられた、藍染めの布が継ぎ合わされた古いタペストリーが目を引く。
おそらくは相当に古い端切がパッチワークされている。
かなり時代を経ていそうだ。
明治、あるいはそれ以前のモノだろうか。
大事に使い続け、受け継がれてきて今に至るのだろう。
竹籠やワラビで編まれた籠が重ねられ、和ダンスが置かれている。
午前の光に満たされたさっぱりした店内は、ほとんどが古い和物にもかかわらず、モダンで気持ちが良い。
店内を見てゆくと奥にもう一つスペースがあった。
バックヤードなのかと思い、入るのをためらっていると、先程の女性が、そちらもどうぞ、と言ってくれた。
外の光の届かないその先を覗く。
目に飛び込んで来たのは白い片口だった。
ほの暗い奥のスペースで、その白い片口はまるでスポットを受けているように輝いて見えた。
心を射抜かれてしまった。
その瞬間、ハッと息を飲んだことだろう。
白い片口以外まったく見えなくなった。
周囲にシンと音は無く、室温も少しさがったかのように感じた。
手に取ってよく見る。
じっと眺める。
この片口は直径が20センチちょっとある。
肉厚でどっしりと重い。
手を通じて伝わる土の力強さを確かめる。
もうほとんど買うことは決まっているのに、さらにディテールを確認する。
ちょっとしたヒビなんかまったく気にならない。
一目惚れとはまさにこのことだ。
しかしここで問題に気付く。
この片口には値段がついていない。
この片口は一体いくらなのだろう。
頭が凄い勢いでまわりだす。
自分はいくらまでならだすのだろう。
私はこの片口をどこまで本気で欲しいのだろう。
無名の陶工が、日々繰り返し飽きるほどにこの片口を作ったことだろう。
見えもてらいも無く、ただ無心にロクロをまわしたことだろう。
高台を持ち、釉薬に浸した際に残った4本の指の跡をなぞる。
無名の陶工が残した作業の痕跡をとても好ましく思う。
店の女性に値段を尋ねる。
さりげなく。
何気ない風を装って。
その答えは、まさに私が予想した額であった。
ビンゴ!!
人生は宝物探しだ。
一生続く宝探しだ。
その瞬間を逃しちゃいけないんだ。